2014年6月4日水曜日

願い

○○ホームの○○さんは、月2回、実家に帰省されます。

 帰省すると、○○さんを支援する中心はお父さん。
 朝、決まった喫茶店に行ってコーヒーを飲み、午後、一緒に近くのスーパーに買い物に行くことが日課だそうです。
 夜はお父さんの布団で一緒に寝るのが、子どものころからの習慣で、未だにベッドにもぐりこんでくるとのこと。
 年1回のアセスメント(聞き取り)の際、「もうね、しょうがないんですよ」と笑いながら、そんなお話を繰り返し聞かせていただきました。


入所施設から今のグループホームに移られる決断をされたときの話もありました。

 「あの時はね、大丈夫か、どうなることか、と本当に不安だったですよ。でもねえ、今はあの時ホームに移ることにして、本当によかったと思っているんです。 本人も楽しそうにしているし、皆さんに良くしていただいているし。今はね、安心しています。もう皆さんにお任せしています。よろしくお願いします。」


時には私の足りない部分をきちんと指摘してくださいました。

 帰省から帰ってきたとき、○○さんの自室にほこりが少したまっているのを見ると、「申し訳ないんですが、掃除とシーツの取り換えだけ、お願いします。これ(○○さん)はなかなか自分ではできないのでね。よろしくお願いします。」
 私は反省と恐縮しきりでした。そして、こちらの不備にも関わらず、そんな話をする時も、とても丁寧にお話をされるお父さんでした。

 その後体調を崩され、車の運転がおぼつかなくなっても、月2回の帰省を楽しみにされている○○さんのために、遠方から迎えに来てくださっていました。○○さんが実家に帰ってくることをよりどころに、頑張られている姿がありました。

先日、そのお父さんが亡くなられました。

 葬儀で拝見した最後のお姿から、「皆さんにお任せしています。よろしくお願いします」という声が聞こえてくるようでした。
 子を思う、親御さんの気持ちに寄り添い、応えることがどれだけできてきたのかと自問しました。
 「大丈夫です。任せてください」と、胸を張って言えるようにできただろうか、できるだろうか。後悔とも懺悔ともつかぬ思いが巡りました。

 私たちは、言葉をもたない利用者さんの支援をする機会を多く持ちます。
 ○○さんも、言葉で自分の思いを語ることができません。その方の思いや願いは、親御さんや周りの人、近くにいる支援者が、過去の出来事や、ご本人の日々のご様子からくみ取って考えることが多いと思います。

 ○○さんが生まれてからずっと、苦楽を共にされてきたお父さんがいなくなるということ。
 それは、支援者として、○○さんのことをより深く理解し、時には、「違う、そうではない」と叱咤され気づかされる大切な機会を失ってしまったということです。このことを肝に銘じて、お父さんからいただいた言葉や思い、願いを、支援者みんなで共有して胸に刻み、また次に関わっていく者に引き継いでいかなければならない、と感じます。

 「ひとつ、なんとかやって欲しいと思うことがありましてね。以前、○○が温泉に旅行に連れて行ってもらったんですが、その時の写真を繰り返し見ているんですよ。よほど楽しかったんでしょうね。また連れて行ってもらえたらなあと思うんです。」
…以前、お父さんに言われて、まだ実現できていないことがあります。

 お父さんの願い、○○さんの願い。どう受け取り、どう形となるよう取り組むのか。
 考え、行動していかなければと思います。

(居住サポートセンター 奥田)